2種類のアービトラージ戦略

先日次のような記事が日経に掲載され少し話題を呼んだ。

www.nikkei.com

東証に上場する貴金属ETFである「純金上場信託」(1540)と「純銀上場信託」(1542)の市場価格が基準となる金・銀の価格から大きく乖離し、鞘が長らく放置されていたという内容だ。このような不健全な値動きが形成された背景には次の二つの原因があると思う。

一つにはETFの設定会社が金の現物を入手してETFに結び付ける、という作業は結構大変なものらしく、急に買い上がられると裏付けとなる資産価格に戻すまでにある程度のタイムラグが生じてしまうこと。もう一つには、東証に上場する全てのETFにマーケットメイカーが付いている訳ではないことだ。

www.jpx.co.jp

(銘柄が証券コード順に並んでいないのでとても探しづらい、どういうつもりでこのリストを作成したんだ東証の人間は、、、)

日経でニュースになる10日ほど前に弊サークルで精力的に活動するメンバーが既にこの値動きの乖離を発見していた。自分は「東証に上場しているぐらいなんだから絶対MMが背後にいるわけで、そんな分かりやすい乖離が生じるはずなんかない、貸借銘柄であるから個人も容易に空売りできるわけだし」と考えていた。しかし念のためETF別のMMの状況を上に貼ったリンクから確認したところ、いくつかカバーされていない銘柄がありとても衝撃を受けた。

今回の場合金ETFの1540はMMがいるものの、銀ETFの1542はついていない状況だった。これでは確かに正常な価格形成は難しい。同じ銀ETFである1673はあまり乖離していなかったので、1673ロング1542ショートによって約30%の鞘を抜けたことになる。(アービトラージは他の投資戦略と同じく多くの人間に気付かれたら終わりなので、今回の件も記事にするつもりはなかったが、日経さんがネタばらししてくれたので書くことにした)

 

このように、原理的に同一価格となる二つの商品が異なる価格で放置されている鞘が収まることに賭けたトレードは「狭義の」アービトラージと呼称してよい。

一方、本来異なった値付けがなされたとしても全くおかしくはないのだが、経験則的に、あるいは価格を決定するファンダメンタルによって強く相関した値動きをする二つの商品の価格乖離が通常より大きくなったところが元に収まることを期待するトレードは上のそれとは区別されるべきで、この場合「広義の」アービトラージと呼称してよいだろう。

広義のアービトラージが可能なペアの例としては、塩ビ管に強い某日本企業の株価と米国の不動産株指数、コカ・コーラ株とペプシコ株、オーストラリアドルニュージーランドドルなど枚挙にいとまがない。

特に有名なものとしてナスダックQQQと米国長期債TLTの強相関があり、自分も昨年この鞘が閉じることにかけて米国債ロング、米国株ショートを行っていたのだが見事に丸裸にされてしまった。

引用元:https://www.seeitmarket.com/tech-stocks-versus-interest-rates-reaching-breaking-point/

広義のアービトラージは、極端な話押し目買いと大してやってることは変わらないので、気を付けないと焼かれる。狭義のアービトラージは成功確率が極めて高いものの、その分滅多に訪れない。どちらも共通して気を付けなきゃいけないのは、結局どこまで乖離するか分からないのでいきなりアクセル全開にせず、絶対に戻るから平気!などと甘いことを考えずに、ポジションサイズに気を使って売買しなきゃいけないこと。

今回の反省点は「常識はそれほど常識ではない」(ヴォルテール)という重要なトレードの原則を見誤ってたことだ。週に一回ぐらいは全ETFのNAVからの乖離率を見といたほうがいいかもしれない。